3連休の真ん中の日曜日。
梅雨明けを決定づけるような快晴だった。
今日は夕方から上司の実家でのBBQにお呼ばれをしていた。
場所は高知県須崎市上分。
津野町にほど近い新庄川沿いの集落である。
以前早朝に買いに行った弁当屋に向かう途中にある。
夕方からお邪魔することになっているが、せっかくの天気なので同僚家族とともに新庄川で遊ぼうと午後過ぎに出発した。
新庄川は2012年に絶滅種に指定されている『ニホンカワウソ』が最後に撮影された場所である。
公式にはもう日本には存在しないとされているニホンカワウソが最後に泳いでいたってことだ。
非公式の目撃情報は2012年以降もチラホラあるらしい。
なんてロマンのある話か。
初めて泳いだ新庄川は、とても透明度が高く、水深も深すぎずにとてものんびりできる川だった。
遊び疲れてそのまま上司の実家に向かう。
そこには昔ながらの日本の田舎の風景が残っていた。
山と川と田んぼしかない。
なぜだか分からないが、不思議なトリップ感というかデジャヴ感というか、なんとも言えないノスタルジーな感情が出てきた。
僕の地元にはない景色なので、懐かしいとかではないはず。
でもノスタルジーとしか言えない。
日本人のDNAに刻まれているのか、なんとも不思議な気持ちだった。
その後、上司の庭でBBQスタート。
日陰になっていて、風もよく通るのでとても涼しかった。
エアコンなんていらないんだな。
よく食べてよく飲んだ。
ちなみに一番美味しかったのはスイカである。
一人暮らしにとって一番ハードルが高いのがスイカだもんな。
上司ともいろんな話をした。
仕事のこともプライベートなことも。
そしてこの場所のことも聞いてみた。
聞けば、ここは上司の奥さんの実家であり、管理のためにも週末に別荘のようにして使っているのだとか。
なんとも羨ましい話である。
普段の暮らしは高知市内で不便なく暮らし、週末にはここでリラックスして過ごす。
ある意味では理想の田舎暮らしじゃないかな。
日が暮れると辺りは真っ暗になる。
車の音もバイクの音もない。
聞こえるのは虫と鳥の声。
見上げると、満点の星が覆いかぶさってきていた。
「きれいだな」とか、「感動的だな」とか、
そんな感情にはならなかった。
ただひたすらに
「昔の日本の夏はこんなだったんだな」
ということを考えていた。
どこの田舎でもこんな景色だったんだろうな。
おそらくそう遠くない昔の日本人の暮らしはこんなだっただろう。
そう考えると、なんともエモい気持ちになった。
とても静かで暗くて、エアコンがなくても涼しくて。
自分が体験したはずではない昔の日本の夏をリアルに想像して、勝手に懐かしい気持ちに。
こういう場所での暮らしってどんな生活なんだろう。
何を楽しみに、何を思って暮らしてたんだろう。
そんなことばっかり考えてた。
きっと今の僕らよりも穏やかに豊かに暮らしてたんじゃないかな。
羨ましいなと思う反面、早く家に戻りたいなとも思う自分がいた。
このへんの感情は自分でもよく分からない。
上司にお礼を言って、その場を後にした。
同僚の車に揺られながら市内に戻る道を行く。
少しずつ街灯が増えていく。
道路沿いに明るいお店が増えていく。
車で1時間ちょっとでこんなことになるのか。
家に着きシャワーを浴びてエアコンをつける。
涼しい風が部屋を満たしていく。
冷蔵庫から冷たい水を取り出してがぶ飲みする。
外からは車の音に混じって電車の音が聞こえてくる。
遠くでは救急車が走っている。
さっきまでいたとことは大違いの喧噪だ。
でも、僕はまだこれがいいな。
騒がしくて明るくて、蒸し暑くて。
そんな夏がまだ僕には合ってるんだな。
でもいつかはあんな場所で暮らすのもありかもね。