僕は松屋に行ったことがない。
35歳の松屋童貞なのである。
その存在は様々なメディアで知ってはいたが、いかんせん生活圏内にないので行くことはない。
県外に出ていくことはあるが、せっかくの県外での食事に『松屋』を選ぶなんてことはありえないのである。
つまるところ、松屋童貞をこの歳までこじらせてしまったのは仕方のないことなのだ。
そんな僕にも松屋チャンスが訪れる。
昨年秋に高知に初めて松屋がオープンした。
オープン当初の混雑具合はそれはそれはすごかったようで、早朝すら並んでいたとの噂もある。
なので少し落ち着いてから行こうとのんびり構えてたら半年が経ってしまっていた。
ただでさえ『かつや』と『ココイチ』で忙しい僕にとって松屋に行く時間などないのだ。
そう思っていたのだが、先週ごろチキの愛称で知られる『ごろごろ煮込みチキンカレー』が復活したとのニュースが飛び込んできた。
松屋童貞の僕でさえその名前を知っている。
あまりの美味しさと中毒性で、オリジナルメニューから姿を消したときは暴動が起きたとか起きてないとか(起きてない)
たびたび期間限定で復活しては、中毒患者を増やして社会問題になってるとかなってないとか(なってない)
とにかく美味しいとの噂を聞いていた。
というわけで、僕の松屋童貞を捨てる相手として不足なしと判断し、初めて松屋を訪れた次第である。
初めての注文スタイルにめちゃくちゃ戸惑いながらも、こういう時こそ『慣れてる感』を出したがるのは男の性なのである。
無事にセットのサラダを頼みそびれてしまった。
カウンターに腰かけ、まんじりともせずに待つこと数分。
僕の持つ番号が呼ばれた。
全くもってシステムを理解してなかったので10秒ほど立ち尽くしている僕に、店員さんが目くばせをしてくれた。
そうして届いたのがこれだ!
思っているよりもずっと『ごろごろ』している。
そして、なかなかにスパイスが香ってくる。
やりおる。
めちゃくちゃ美味しそうだ。
だが少しだけ複雑な気持ちになる
「ココイチより美味しかったらどうしよう・・・」
そう。
僕の愛してやまないCoCo壱番屋よりも美味しかったら、僕は素直にそれを認めれるだろうかという変な心配をしていたのだ。
ドキドキしながら一口目を頬張る。
うん。
美味いな。
しっかりしたスパイスの立ち、一体何をどう煮込んでんだってくらいの深みとコク。
ごろごろチキンの存在感。
辛さのなかに甘みもあって後を引く中毒性がある。
こりゃ美味いわ。
こりゃ流行るわ。
みんな食べるのも納得である。
そして後で追加でトッピングし直した温玉もいってみる。
文句なしに美味しいわ。
ご飯全然足りないよ。
ご飯泥棒だよ。
味わいながらも音速で完食した。
うむ。
美味しかった。
ごろチキのあまりの美味しさに驚いていた。
牛丼屋のくせに何やってんだこいつ。
しかし、それと同時に少しホッとしていた。
そう。
ココイチのほうが好きだったからだ。
ココイチのほうが美味しいとは言わない。
どちらも美味しい。
でも完全にココイチのほうが好き。
美味しいよりも好きのほうがずっと上なのだ。
こうして僕の初体験は終わった。
ごろチキが辛さを増すことが出来るならもう少し迫れたことだろう。
敗因はそこだな。
そんな上から目線の感想戦をしつつ帰路についた。
本妻と浮気相手を比べるようなことを、チェーン店のカレーでしていた自分の気持ち悪さに目を瞑り就寝したのである。