むらよし農園

面白いことが書ければと。

死ぬかと思った

お題「これまで生きてきて「死ぬかと思った」瞬間はありますか?身体的なものでも精神的なものでも」

 

今思い出しても、よく生きていたなと思う。

 

あれは小学6年生の頃の話。

 

何もやることがなくブラブラしていた春休み。

とりあえずみんなのたまり場のAの家に。

 

このAこそが、この話の主役である。

以前、一緒に海賊団を結成していた友人でもある。

 

murayoshinouen.com

 

この日、Aの家は、大掛かりな掃除をしていた。遊びに行った僕も掃除を手伝わされる。

最初こそみんな真面目に掃除をしていたが、Aの家はたまり場ゆえ、1人また1人と友人がやってくる。

そうなるともう掃除どころではない。

 

はしゃぐ僕らは家を追い出され、家の外の倉庫の整理を命じられる。

 

そこでも真面目にするはずない僕らは、何か遊べるものがないかを探し始めた。

倉庫と言っても、ほとんど農機具で、子どもが遊べるようなものはなかった。

 

とりあえず言われたように、農機具をきれいに並べ、床を掃いて、作業を終わらせた。

 

しかし、家の中は掃除中で入れない。

そこで、近くの電柱に向かって石を投げて当てるという、石器時代の遊びを始めた。

 

これが、意外なほど盛り上がり、みんなで小石を投げまくった。

そのうち、Aの兄がデカい石を投げ始める。

 

最初こそみんなビビっていたが、デカい石が電柱に当たった時の音や、割れた時の迫力に魅せられ、どんどん投げる石をデカくしていった。

 

ちなみにA家の庭から、道路を1本挟んで電柱は立っている。そして、その後ろは川なので、外れた石は川に入っていく。

 

僕らは、投げる場所を固定し、何回投げて何個当てれるかを競うというように、ルールを定めていった。

 

そうして、それぞれ対戦していった結果、決勝は、A対A兄という兄弟対決となった。

 

会場のボルテージはMAX。(小学生5人、中学生2人)

ジャンケンの結果、Aが先攻で、A兄が後攻。3回先に当てたら勝利というルールになった。

 

いよいよ始まる決勝。

 

絶対に負けられない戦いがそこにはあった。

 

 

注目のAの初球。

 

Aは、おもむろに玄関に走っていき、野球ボール大の泥団子を持ってきた。

 

おいおい。

それは、Aがずっと大事にしてきた泥団子『ドラゴンストーン』じゃないか。

そんなに大事にしてきたやつを投げてもいいのか?

 

Aは自信満々に言う。

 

「これはドラゴンストーンの影武者として作っておいた『ドラゴンストーン2nd』だ。」

 

泥団子の影武者だと?

訳が分からない。

 

しかし、大事に作った泥団子を初球に持ってくるほど、この戦いはAにとって重要なものなのだろう。

 

Aの決意が伝わってきたのか、にわかに緊張感を増してくる。

 

みなが注目する中、Aは大きく振りかぶり、渾身の力で初球を投げた。

 

 

その刹那

 

 

 

滅多に車など通らない道を、すごいスピードで大型トラックが走ってきた。

 

 

そして、Aの泥団子『ドラゴンストーン』の影武者『ドラゴンストーン2nd』がトラックの助手席に命中した。

 

 

「バンッッッ!!!」

 

と音を立てて砕けるドラゴンストーン2nd。

 

急停車するトラック。

 

静まり返る僕ら。

 

 

2秒ほどの沈黙の後、

 

「バンッッッッ!!!!」

と先ほどの泥団子の命中音より、はるかに大きな音でトラックのドアが閉まる。

 

 

僕はその場から逃げ出そうかと思ったが、トラックから降りてきた運転手の男性の姿を見た瞬間、体が硬直して動かなくなった。

 

 

運転手の男性は、

年齢は40代~50代、恰幅のいい体格にパンチパーマ、目にはサングラスをかけている。

みなさんが恐いと思うトラック運転手を想像してもらったらいいと思う。

ゆっくりとこちらに近づいてくる。

 

僕らは声も出せずに固まっている。

 

歩いてくる運転手は、

 

 

 

手に木刀を持っていた。

 

 

 

 

僕らは全員が死を覚悟した。

 

チラッとAを見る。

 

Aはなぜかキョトンとした顔をしていた。

人間、あまりにもヤバいことになると、現実を直視できないんだということをこの時知った。

 

 

 

まず一番近くに立っていて、この中で一番年長のA兄が胸倉を掴まれて、

 

「誰がやったんやコラ?」

 

とドスの効いた声で脅された。

 

僕らは誰も声が出せない。

 

Aはここにきてやっと涙を流し始めた。

 

運転手は、その場にいた全員に強烈なゲンコツをかましてきた。

全員、甘んじてそのゲンコツを受け入れた。

 

半端なく痛かった。

 

その後、運転手は「親を呼んできなさい」と言った。

 

その声にはもうドスはなかった。

 

その後は、Aが走ってA親を呼びに行き、A親が猛ダッシュで出てきた。A親は終始平謝り。

運転手は、冷静な声で「危ないからこんなことは絶対にさせないように」とだけ言った。

 

そして、僕らに向かって最後に

「大きな事故になることだってある。気をつけなさい。」

と言って去っていった。

 

その場にいた全員が涙を流し、Aはその場にへたりこんだ。

 

ホントに殺されるかと思った。

助かった。

 

みんな安堵していた。

 

 

まぁ、A母が、へたりこんで泣いてるAの髪を掴んで起こさせ、ボコボコにし始めたのも大分怖かったけど。

 

 

これが僕の死ぬかと思った体験。

 

そしてこの話には、続きがある。

もっともっとヤバい続きがあるが、それはまたの機会に。

 

死ぬかと思った

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