今週のお題「人生で一番高い買い物」
このお題のページに、
『家、免許、カメラ、人生経験・・・』ということが書かれている。
家は買ってないし、カメラは昔トイカメラにハマってた時にいくつか買ったけど高いものじゃないし、人生経験はプライスレスだし・・・
そして免許である。
免許を高い買い物だという考えは持ってなかったけど普通にめっちゃ高い買い物だな。
ということで免許にまつわる思い出を。
僕の地元では高校卒業と同時に免許を取るのが当たり前で、みんな1月の終わりごろから通い始める。
いくつかの高校から一気に生徒が教習所に集まるので、教習所内はさながら大コンパ会場。
行き帰りはバスでの送迎なので、バスの車内はラブワゴンのようになっていた。
みんな毎日毎日浮かれ散らし、惚れた腫れただの、引っ付いただの離れただのと『あいのり』さながらの恋愛ドキュメンタリーを繰り広げていた。
僕も例にもれず浮かれていたが、みんなと一緒だとは思われたくなく、浮かれている様子は一切見せずに「全然興味ないんで、むしろダルっ。」と精一杯の虚勢を張り、クールボーイを演出していた。
そんな剣桃太郎ばりに硬派な僕だが、どうしても異性を意識せざるを得ない場面があった。
それが、教習中の同乗である。
教習車に生徒3人乗り込み、教官が助手席に乗り、生徒が交互に運転をする教習である。
自分の運転する車に、教官だけでなく生徒も乗っている。そしてそれは女子の時だってあるのだ。
これはもはやデートと同じである。
車に女性を乗せるという大人のデートを疑似体験出来るのだ。
緊張しないわけはない。
僕は精一杯のクールさを保ちながら、細心の注意を払い、全集中で運転をしていた。
車の運転が下手な男なんてレッテルを張られた日にはもう表を歩けない。
そう思いながら一所懸命、日々の教習を頑張っていた。
そして迎えた仮免許の技能試験当日。
僕はこれまでの模擬試験というか、教官のチェックを毎回満点でクリアするほど運転技能と試験コースをマスターしていた。
落ちるはずはない。
そもそも技能試験で落ちる人なんてそうそういない。
ましてや仮免だ。楽勝である。
そう言い聞かせていざ試験開始。
いつもより大袈裟な乗車準備をして乗り込む、いつもより大袈裟に動作確認をして車のエンジンをかけて、試験開始。
バックミラー越しに、後ろに乗った女子の顔色チェックも忘れない。
安心しきっているな。
さぁドライブの開始だ。
心なしか試験官が僕の顔をガン見し始めた気がするが、圧迫面接のようなものだろう。
そんなもの、男塾出身の僕には通用しない。
まずは場内をぐるっと1周していく。
その半分くらい過ぎたころ、試験官が大袈裟な溜息をついた。
こ、こいつなんて嫌なやつなんだ。
そう思ってると。
「気付かないかなぁ?」と独り言のように言っている。
なんて嫌なこと言うんや。
これから頑張って免許をとろうという若者のやる気を削ごうなんてなんやねん。
そんな試験官のプレッシャーにも負けずに、もうすぐ1周を終えようとしたそのとき。
試験官から
「はい、試験を終了するのでスタート地点で車を停めてください。」
と言われた。
僕は全くもって意味が分からなかった。
バックミラーに写る女子もざわざわしてる。
試験官はまた、「まだ気づかない?」
と聞いてくる。
シートベルトはしてるし不備はないと思うし・・・
無言でもごもごしてる僕に試験官はため息交じりにこう告げた。
「君ねぇ、半ドアだよ?」
まさかの指摘に恐る恐るドアを開けてみる。
半ドアだった。
この教習所は設備も教習車も古い。
半ドアの際に音が鳴ったり、警告を知らせてくれるような機能はない。
ただ、メーター横の小さなランプが点灯するだけである。
こうして僕の初めての仮免許の試験は終わった。
同期での最速の試験失敗だったし、教習所の長い歴史のなかでも3本の指に入るほどのマヌケな落ち方をしてしまった。
それからはすんなりと免許取得までいけたのだが、しばらくは『半ドアで仮免落ちた男』という不名誉な称号をもらい、成人式までイジラレ続けることになる。
これが僕の免許の思い出。
あの時の試験代はとてつもなく高い買い物だと思ってたけど、みんなに笑ってもらえるのなら安いものだね。
みなさん、車の運転の際はくれぐれも半ドアにお気をつけください。