地元のみんなに愛され、長くやってきた。
個人経営、店主も高齢で後継者がいない。
いつ何時なくなってしまうか分からない。
分からないが、おそらくその日は遠くない。
そんな飲食店ありますよね?
そんな店を『絶メシ』と呼んで、なんとか絶やさないようにという活動も起きている。
絶メシ 総合サイト | 博報堂ケトル発の地方創生プロモーション (kettle.co.jp)
そんな『絶メシ』は僕の故郷である奄美大島にも数多く存在する。
どこを撮っても映え映えな写真が撮れるこの島である。
そんななか、全く映えないが、めためたに美味い店を紹介したい。
島の南端にある瀬戸内町という小さな港町にその店はある。
海に近い、街の外れにポツンと現れるその店こそが、
『とみ食堂』である。
『とみ食堂』と書かれた看板のかすれ具合に、全てが表れてると言っても過言ではない。
住居と店舗一体型。
10数年前に代替わりをして、建物も新しくなった。
中に入れば、哀愁漂う古き良き定食屋の趣である。
とても狭く、MAXで10人も入れないほど狭い。
メニューは『うどん』『ラーメン』『焼きそば』の3つのみ。
価格はうどんとラーメンが500円、焼きそばが550円だ。
そして、メニューには書かれてないが、『ごはん』もある。
この潔いラインナップと安すぎる価格設定には痺れるばかりだ。
僕は基本焼きそばしか食べない。
世界に誇れる無二の焼きそばがここにはある。
「この状態で出そうと思った勇気がすごい」
知人にこの焼きそばの写真を見せた時の感想である。
彼は、いわゆる綺麗で高級な店を好む。
だからこんなシャバい感想が出るのだ。
「・・・・・・・・・・・(やべぇ)」
これが僕の感想だ。
もはや口の中は唾液で溢れて言葉は出ない。
この反応が出来る人がこの店に吸い込まれていくことになる。
さて味だが、美味いの美味くないのってもうね。
美味過ぎるのよ。
濃い濃いソースさながらに真っ黒なソースをまとった麺を、茹でキャベツが上手く調和する。
茹でキャベツはシャキシャキとは程遠い『しなしな』食感なのだが、それがまたよき。
肉もキャベツの下にたっぷりと入っていて存在感を示す。
まぁこんな感じの食レポで普通は終わるのだが、とみ食堂の焼きそばにはもっともっと重要なストロングポイントがある。
焼きそばの表面に振りかけられてる白い粉が見えるだろうか。
これこそが焼きそばの味の要、ガーリックパウダーである。
これが全面にたっぷりと振りかけられていて、とんでもなくガツンとしたフレーバーが楽しめる。
昔は楽しめるどころの騒ぎではなく、翌日まで強烈に匂いが残るほどだった。
焼きそばの表面が真っ白になるほどパウダーまみれだった。
今はそんなことない。かなりガツンと来るが、常識の範囲内なのでご安心を。
濃い味のソース、ボリューム満点の豚肉、しなしなのキャベツ、たっぷりのガーリックパウダー。
これらが一体となってとみ食堂の味を作り上げている。
とみ食堂以外では味わえない味である。
書きながらもう食べたくなっている。
中毒性はバツグンだ。
そして、ラーメンも実は美味い。
ぱっと見沖縄そばのようにも見えるが、れっきとしたラーメンである。
このラーメンも本当に美味い。
塩ラーメンなのだが、これもまたどことも似ていない独自の味を作り上げている。
麺はもちもちで、古き良き食堂ラーメンのそれである。
ちなみに、うどんもおいしいわけだが、うどんのスープのラーメンのスープは同じである。
これもまた斬新。
だが、常連たちからは、「実はうどんのスープのほうが少しだけあっさりしている」との証言も聞こえてくるので真偽のほどは確かではない。永遠の謎だ。
このように、うどんとらーめんのスープをめぐって論争が起きるほど、この店は愛されているのだ。
もしもこの島を訪れるチャンスがあるのなら、海鮮と郷土料理の次くらいにこの店を思い出してほしい。
きっとここでしか出会えない味があるから。