宇佐のほうに、とんでもない安さのラーメンを出す店があるらしい。
初めてそう聞いたのはもう5年以上前になる。
たまに思い出しては、「そのうち行かなきゃ」と思いつつ、またも忘れるということを5年繰り返していた。
この度、土佐市宇佐に用事があり、ちょうどそのタイミングで件の店を思い出したので、行ってみた。
その店の名は、『千﨑製麺』
うどん屋の屋号に『○○製麺』とつくことはよくある。
しかしラーメン屋ではあまり聞かない。
期待しかないな。
お店は宇佐の住宅地の真ん中にポツンと現れる。
「この店はかなり出来るな。」
店の佇まいから、そんなオーラを感じ取ることが出来た。
中に入ると、雑然としながらも小ぎれいな人ん家みたいな雰囲気。
確実に令和には辿り着けていない。
昭和の空気を残しながら、平成で止まっている。
そして、おばちゃんのエプロンと三角巾が店の味わいにコクを足している。
店の奥にはイートインスペース。
もうね。100点です。
食べる前から僕はもう満足していた。
この空気感は今どこ行ってもなかなか味わえない。
コンクリの床を鉄製の椅子が滑る音だけで満たされていた。
メニューはこんな感じ。
安すぎるだろ。
ヤバいよ。
ラーメン300円?
いまどき1300円も珍しくないこの時代に随分と安い。
価格までもが令和に辿り着いていない。
しかしながら、これでも値上げをしているそうだ。
僕が初めてこの店のことを聞いた時は、確か200円だったと記憶している。
300円でも安すぎるのに200円は正気ではない。
アホな値段設定に驚きつつも、『醤油ラーメン』の太麺を注文。
数分待って着丼したその姿を見て確信した。
やはりこの店は間違いない。
シンプルだが妙に色気のあるルックス。
トッピングはネギとじゃこ天、それにすまき(かまぼこ)のみ。
麺からすする。
一口で懐かしさに包まれた。
僕の生まれ育ったところはこの地域ではない。
それにこの店には初めての来店だ。
だが、小さい頃からここに来ていたかのような懐かしさが溢れてきた。
「あの頃から変わらない味だな」と、初来店とは思えない感想を述べる。
そのくらい懐かしい味だった。
麺は柔らかいが、モチモチと心地よい。
スープは見た目から予想できる味のままだが、あっさりしてて美味しい。
市販されてる袋入りのスープだが、それでも妙に美味しい。
ズルズルとすすりあっという間に完食した。
そこですかさず替え玉を注文する。
おばちゃんは器を下げに来てくれた。
替え玉で、器を一回下げてから持ってくるパターンは珍しいな。
きっと麺を入れた後、また少し整えてキレイにしてから持ってくるってことなんだろうな。
そんなことではなかった。
でもそんなの別に求めてもないし大丈夫。
美味しいから問題ない。
ちなみに替え玉は太麺オンリーなのであしからず。
細麺食べたい人は、最初に細麺にしておいて、替え玉で太麺にしよう。
替え玉も一瞬で丸呑みし、大満足でお会計。
『400円』
安すぎるだろ。
綺麗なコップに水をいれて持って来てくれる。
美味しいラーメンがおかわりまでできる。
それでいて400円。
どんな理由かは分からないが、この価格設定には話せば長くなるような事情がありそうな気もする。
そんなことに思いを馳せながら、僕はこの店が改めて好きになった。
僕は先月、超有名店でラーメンを食べた。
『銀座 篝』という店である。
そこで食べた特製ラーメンの価格は1500円だった。
めちゃくちゃに美味しかった。
千﨑製麺のラーメンは、上のラーメンと比べても遜色ないかと言われるとそうではない。
さすがに銀座篝の鶏白湯のほうが美味しい。
でも、5倍の金額差ほどの違いがあるかと言われればそうでもない。
きっと、これらのラーメンは比べるものではないのかもしれない。
どちらにもそれぞれの売りがある。
その点で言うと、千﨑製麺は売りしかない。
価格、味、ノスタルジー。
その全てにおいて大満足だ。
土曜の午前中の授業を終えて、父と二人でよく食べに行ったあの食堂のラーメンと同じ味。
みんなにとってもきっとそういう味だと思う。
ぜひ一度お試しあれ。
『千﨑製麵』
〒781-1161 高知県土佐市宇佐町宇佐829−4
定休日:火曜
営業時間:11時~16時