むらよし農園

面白いことが書ければと。

老いに抗うその一歩

早朝から諸々のタスクをこなし、シャワーを浴びてサッパリと。

 

スキンケアとヘアケアを済まし、お気に入りの香りをまとって家を出る。

 

秋の朝の涼しい風が吹くなか、クロスバイクで颯爽と出勤。

 

そんな清々しい朝のワンシーン。

 

まるでドラマの爽やか俳優になりきっていた僕に、水を差す出来事が訪れる。

 

通勤途中に、ガラス張りのお洒落なオフィスの前を通る。

その際、ふとそのガラスに映る自分をチラ見した。

 

みんなも見るよね?

僕だけじゃないよね?

 

うん。

 

朝からかなりイケてる自分を演出していた。そんな自分の横顔をチラと見る。

 

 

そこには、自分で思うよりもしっかりとしたおじさんがいた。

 

 

危うく自転車から落ちてしまいそうなショックに耐えながら僕は自転車を漕ぎ続ける。

 

 

さっき見えた横顔を払しょくするように全速で漕ぐ。

 

 

すぐに疲れてしまう。

 

やはり。

 

僕はおじさんになってきている。

 

 

朝からかっこつけていた自分と、それを映してしまった無駄にお洒落なオフィスに呪いをかけながら通勤路をいく。

 

ショックだった。

 

35年間の重力は頬を垂れ下げてくる。

15年以上飲み続けてきたお酒は肌艶を褪せさせる。

日々節制しても、屈んだ体勢ではお腹のポッコリは消せない。

 

普段鏡の前で見る、正面からのキメ顔と、ふとした拍子に見えてしまった横顔とのギャップに打ちのめされそうになる。

 

それによく考えたら、朝の描写もめちゃめちゃ美化しまくってるだけでもっとおじさんくさかったと思う。

歯磨きながら5回くらいえずいてたし。

 

これはいかん。

どうにか抗っていかないと。

そんなこと思いながら自転車を走らせていた。

 

職場までもう少しというところにきて、50メートルほど先の信号が赤から青に変わる。

 

僕は無意識に間に合わないと判断して、スピードを落とし信号で止まる準備をする。

 

すると、脳内に稲妻のようにお叱りの言葉が響いた。

 

「今この瞬間にスピードを上げれば間に合うだろ!!」

 

ハッとした僕は急いでペダルを力強く踏み出した。

 

結果、青のうちに信号を渡ることが出来た。

 

最初ののろのろしたスピードでは間に合ってない。

あそこで一漕ぎ、強く踏み出せたから間に合った。

 

 

老いに抗うってのはきっとこういうこと。

 

瞬間的に踏み出すこの一歩こそが僕を老いから遠ざける。

若者みたいに逡巡してる暇なんかない。

反射的に一歩踏み出せる男になりたい。

 

踏み出せば、その一足が道となる。

さぁ抗っていきましょう。