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再出発
イートインスペースで腹ごしらえ。
めちゃめちゃお腹が空いていたのでカップ麺やらおにぎりやらを買いまくる。
一周することが決まり、尻は痛く、雨に打たれて、道を間違え・・・
心が弱ってた僕らにどん兵衛はよく染みた。
満腹になり、ホットコーヒーを買って店の外でタバコに火をつける。
周りを真っ暗な闇に囲まれ、コンビニの明かりだけが煌々としている。
通りを走る車の音だけが鳴り響くなか、ゆっくりと煙を吐き出す。
こんな寂しいところで一体何をしてるのか。
これまで何度も考えたこの問いを、吸い殻と一緒に灰皿へねじ込んだ。
雨上りが近づいている。
1時間ほど滞在したコンビニともお別れの時間がやってくる。
カバンからヘッドライトを取り出して装着する。
またまたナイトライドが始まる。誰も何も言わないが朝まで漕ぐだろうことは分かっていた。
自転車にまたがった瞬間に尻は痛む。
ちょっと我慢できないほどの痛みに変わってきた。
ゴールまで持つのか?
恐怖の半島
303号線を進む。
今回のビワイチで初めての勾配が現れた。
普段ならそんなに大したことはない傾斜だろうが
こちとらミニチャリ、尻痛、疲労困憊である。
滋賀のただの峠道も『ツールドフランス』の難関山岳ステージのように感じられた。
峠を越え、303号線から県道557号線へと入っていく。
こんな感じで半島をぐるっと回るルートだ。
少々狭い道になるが車通りも少なく、琵琶湖のすぐそばを走れるので気持ちよく走れると思っていた。
実際は全く気持ちよくなかったんだけど。
557号線に入ってすぐに道が狭くなり街灯が少なくなった。
琵琶湖は北の方が寂しいという話は本当だったんだな。
コンビニもないしなんだか不気味ですらある。
あまりの暗さと静けさに少し嫌な空気を感じていた。
これはなんか出そう。
お化けとかやめてよね。
ビビりながら漕ぎ進めていると
前方10メートルくらいから
「ザンッ!!!!」
というどでかい音とともに巨大な鹿が現れた。
鹿は2歩で道路から山の方へ消えていったが、迫力ある足音と思いのほかの大きさに僕らは完全に戦意を失っていた。
そこから動けなくなったのだ。
近距離で見た鹿の「野生」に怖気づき、僕ら3人は茫然と立ち尽くす。
「怖すぎん?」
「ちょっと無理かも」
「喧嘩しても勝てない」
それぞれネガティブな言葉を吐き出し、落ち着きを取り戻して再出発した。
道は湖沿いに入り、暗くてよく見えないが、波の音だったり、月が反射して光っている湖面を見たりすると琵琶湖を走っていることを実感できた。
さっきの鹿アタック以来、僕らのパーティは車間距離を詰めて走っている。
そうしようと話したわけではないが、ビビりすぎて自然とそうなっていた。
いくつかのキャンプ場の明かりや、ロッジなどの明かりを見ながら先へ進む。
その時
「ガサっ」
10メートルほど前方の暗い崖から1頭の鹿が現れた。
その場に止まり鹿を見つめている僕ら。
鹿は僕らには目もくれずに山へ走っていく。
ホッとして進もうとしたとき
さっきの鹿の倍くらいあるバカでかい鹿が崖からのそりと出てきた。
鹿は立ち止まり僕らを見つめている。
その大きな角からは迫力と殺気を感じる。
僕らは息もできずに鹿の目を見つめ続ける。
時間にすると3秒くらいのものだったと思うが、とてつもない時間に感じられた。
鹿は静かに山のほうへ消えていった。
「シシガミやん。」
野生動物の持つどうしようもない迫力にあてられた僕らは
タイヤ同士がこすれあうほどの近距離で1列縦走した。
前からも後ろからもいつ鹿が来るか分からない。
真ん中の取り合いになる。
そこからはツールの作戦のように先頭を入れ替えながらひたすら半島の終わりを目指して走った。
銀マットの出番
ようやく半島をクリアして大通りにでる。
最初に目に入ったコンビニに立ち寄る。
人工的な明かりがこんなに心強いものだと初めて知った。
コンビニで一服して休憩していると、思い出したように尻が痛くなったきた。
鹿にビビりすぎて尻痛を忘れていたが、もうのっぴきならないほどの痛みになっている。
どうにかしなければ
考え抜いた末に妙案が浮かぶ。
これを尻に敷くという方法だ。
これによってクッション性があがり、尻への負担が軽減されるとふんだのだ。
実際にやってみる。
コンビニの駐車場で深夜に自転車でぐるぐるするおじさんが一人。
尻には銀マットのようなもの敷いている。
想像するだけで情けない話だ。
実際乗り心地は悪くないし、尻へのダメージは確かに軽減されている。
しかし、少しずつずれてくる。
立ち漕ぎなどすれば一発で落ちるだろう。
ん~
悩んだ末に
ズボンの中に入れてしまうことにした。
これでずれないし落ちない。完璧だ。
多少もっこりするが仕方ないだろう。
このままコンビニに入ってしまうと、うっかり通報されてしまう可能性もあるがやむなしだろう。
もう大丈夫。
最高のパートナーを得て
また僕らは深夜の琵琶湖をいく。