誰かにおすすめの飲食店を聞かれた際に、レコメンドする引き出しは多い方がいい。
ガッツリ系ならここだよ、ラーメンならここだよ、イタリアンなら・・・
という風にね。
しかし、全ての店を紹介するわけではない。
なかには、自分だけがそっと開けれる引き出しも持っているのだ。
好きすぎるゆえ、人には教えることが出来ない。
そんなエクスクルーシブな場所を少しだけお見せしよう。
場所は市内某所。
街の喧噪とは少し距離のあるエリア。
電車通りの一本裏手。
人通りもまばらな通りに浮かぶ怪しげな光。
好事家ならば無視できない外観だが、初見で扉を叩くにはちと勇気がいる。
グッと力を込めて入ると、そこはカオスで淫靡でノスタルジックな空間が広がっている。
僕は1秒で好みの店だと確信した。
瓶ビールはサッポロラガー通称赤星。
これ置いてる店は、いい店が多いの法則はそうそう崩れない。
マスターも付かず離れずの絶妙な接客。
まだお客さんの来ない時間に来たのがよかったのかもしれない。
刺激的なものが多くディスプレイされていて、眺めているだけで楽しい。
『SantaFe』の実物を見るのは初めてだ。
こんなに美しい体なら記録に残したいと思うんだろうなと思った。
この日のBGMは最初の1時間は「ジャック・ジョンソン」
聴き疲れないきれいな声が心地よい。
こんな素敵な空間でこんな素敵な曲を聴いていると、自分までGood People になったようである。
その後の1時間はボブマーリィだった。
そのときそのときに気持ちのいい音楽をかけ、鼻歌かましながらお酒をつくるマスターはかっこよかった。
そしてそして、この店一番の見どころは、キッチンである。
憧れるが、きっと真似できない年季と独創性を持った姿は、貫禄を漂わす。
席に着くなり僕は目が離せなくなった。
必要なものが全て手の届く範囲におさめられ、ごちゃついているようで一切の無駄がない。
狭い空間を上手に使っている。
なんてかっこいいんだ。
聞くと、このキッチンには多くのファンがいるそうだ。
やはり分かる人には分かるらしい。
僕は、『天然生活』や『ku:nel』の台所特集が大好きでよく読んでいた。
そんな台所好きの僕を唸らせるこの店のキッチンの完成度は一見の価値がある。
21時を過ぎると、常連さん達がぽつぽつと増えてくる。
酒場での長居はあまりスマートではない。
残った酒をぐっと飲み干して席を立つ。
心配した会計も、安すぎるほど安かった。
また行きたい。行かない理由がない。
みんなに教えたいし、誰にも教えたくない。
こんないい店が、いつも人がいっぱいで入れなくなるなんて嫌だな。
そしてその思いは、長く通っている人ほど強いだろう。
初めて行かれる方は、そういう常連さんやマスターの気持ちを機微に感じ、スマートな振舞を期待したい。
いい店だった。
あんまりいいお酒を飲むとこうなっちゃうんだよなぁ。
みなさんも深夜のつけ麺には注意されたし。