むらよし農園

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【深夜特急に憧れて③】~いざ脱藩の刻~

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送別会ラッシュ

 

過酷なバイト生活の甲斐もあり、12月を前に目標金額を達成した。

こうなると、気持ちがしぼむ前に行動に移さなけばならない。

僕は12月の真ん中に出発することにした。

関西空港発、香港行き。

航空会社はLCCのPeach。

チケット代は片道8000円だった。

 

意外かと思われるが、アジアへの渡航費なんてこのくらいである。

今はどうか分からないが、時期を選ばなければ安く行ける。

 

出発日が決まったので、バイト先の人や周りの人に報告する。

みな応援してくれた。

僕はその時期は短期や日雇いを合わせると4つのバイトを掛け持ちしていた。

そしてそのすべてのバイト先で送別会を開いてくれた。

しかも、それぞれのバイト先で複数回行われたりしたので、結果的に・・・

 

飲み代のせいで目標金額を割ってしまった。

 

 

 

どうやって金を増やすか

 

旅費用のお金を飲み会に使い込んでしまった僕は、迷っていた。

 

出発日までもう日がない。

 

使い込んだといっても、目標金額から3万だけだ。

このまま出発しようか。

それともギリギリまで単発のバイトを入れるか。

しかし、送別会まで開いてもらった手前、またバイトに行くのは恥ずかしい。

どうしたものか。

 

あ、アレか?

いやまさか。ここまで来てそんな馬鹿なことはしない。

 

しかし、もうこれしかないんじゃないか・・・

いや、たかが3万少ないだけじゃないか。そのまま出発した方がいいよ。

でもせっかく決めた設定金額なんだから、それはクリアした方がスッキリするんじゃない?

もう覚悟決めなよ。あれしかないよ。

 

そう、ギャンブルしか。

 

 

 

最後の大勝負

 

以前、1人でマレーシアに行ったことがある。

世界一周を終えた友人がマレーシアを最後の地に決めたので、日本に帰る前の最後の1週間を一緒に過ごそうということになったからだ。

 

飛行機を予約し、向こうでの待ち合わせ場所も決めていた。

しかし、お金だけがなかった。

確か、酒やらギャンブルやらで使い込み、向こうで遊ぶお金が全然なかったのだ。

その時は一発逆転を狙い、マレーシアに飛び立つ前日にスロットを打ちに行った。粘りに粘った末の逆転勝利をおさめ、そのお金を持ってそのまま大阪行きのバスに乗り込んだんだ。

 

そう、僕はその経験から、普段は負けていても、ここぞという時には勝てるんだと信じていた。

自分は「持っている」そう信じて疑わなかった僕は出発の前に最後の勝負に出る。

選んだ機種は、当時まだ新台で相性も良かった・・・

 

『化物語』

 

これで大丈夫。なんなら旅費が大きく増える可能性だってある。

 

そして最後の大勝負を終えた僕の旅費は、

 

 

目標金額からー8万円でのスタートになった。

 

 

 

脱藩の刻

 

最後の大勝負に負けて、目標金額だった30万からー8万円の。22万円での出発を余儀なくされてしまった。

 

これまでの頑張りとは?自分が悪いとはいえ、旅への炎は下火になってきている。

しかし、チケットは取っている。これ以上あがいても仕方ない。行くしかないんだ。

 

大阪へは深夜バスで向かう。

この日は雨だった。

出発を待つ僕

バス停に先輩が見送りに来てくれた。

先輩は餞別を僕に手渡してくる。

 

クールマイルド5箱

 

心底うれしかった。

ありがたい餞別を鞄に詰め込んでバスに乗り込む。

このバスへの一歩が旅のはじまりだと思うと、なかなかに重い一歩だ。

 

バスが動き出す。

窓につく水滴で街の明かりがにじんでいる。

寂しさがこみ上げてくる。正直行きたくない。

なんのためにこんなことを・・・

これから何度となくつぶやくこの台詞を、バスの中で初めて口にする。

 

切なさをぎゅっと噛みしめて眠りについた。

 

つづく