むらよし農園

面白いことが書ければと。

昔々、海賊を目指していた頃 ~後編~

僕が海賊王を目指していた話の続き

 

 

murayoshinouen.hatenablog.com

 

愛船『武蔵丸』を手に入れた我らが海賊団は、海賊団の名前を決めることと、海賊のシンボルでもある海賊旗の制作に取り掛かった。

 

主要メンバー中学生4人と補欠団員の小学生3人を加えた7人での集落会議(レヴェリー)をいつものたまり場で行った。

 

まずは名前決めから、さすが田舎の中学生だけあって、ここに書くのも憚られるほどの厨二病全開のネーミング案が飛び交った。

 

最後の候補に残ったのは以下の3つ。

 

・サイヤング海賊団

・黒龍海賊団

・武蔵川海賊団

 

よくこんな案が出たものである。

サイヤングなんてメジャーリーグの賞の名前だし、黒龍なんていかにも厨二丸出しだし、武蔵川に至っては相撲部屋の名前だ。

 

 

慎重に協議を重ねた結果、

 

 

『武蔵川海賊団』

 

に決定した。

「船が武蔵丸なんだから海賊団はその上の名前じゃなきゃダメだ」

という僕の案が採用されたのだ。

 

そして海賊旗であるが、全員絵心0なので、とてもひどい案ばかり。

 

その中でもマシなどくろマークを作り出し、大きな布に描くことに。

めぼしい布がなく、友人の布団カバーをちょうどの大きさに切って使うことに。

 

ウキウキで小学生(パシリ)に絵の具を持ってこさせて、みんなで描き始める。

 

テンションはMAXだ。

 

 

 

しかしそのテンションはここがピーク。

 

描き進めるうちに、どんどん恥ずかしくなり、最終冷静になったところで

 

「海賊旗はやめよう」

 

という決断になった。

 

友人の布団カバーだけが無残に半分になっただけである。

 

 

そのまま翌日の出航の話し合いをして、みんなでウイイレ大会をしてその日は終わった。

 

 

翌日、武蔵川海賊団の4人(中学生)と見習い3人(小学生)で友人の家に集まり、釣りに行く準備をする。

 

今まではチャリで行っていた釣りも、今日からは船で行ける。

それだけでみんなの目はギンギンのガンギマリ。

 

僕らは釣り具を持って船に向かう。

見習いのバカ3人はなぜか、かんしゃく玉、煙玉、パチンコなどを持って来ていた。

 

完全にウソップの影響を受けすぎたバカな3人だ。

うちの海賊団に狙撃手は3人もいらないぞ。

 

そんなこんなで海に到着。

 

みんなで乗り込みいざ出航。

 

出航して気付いたのだが、どう考えても7人は乗りすぎだ。

めちゃめちゃ狭いし、船のヘリが海面からギリ出てる状態。

これはヤバいぞ。

 

とりあえずいつも釣りしてる磯まで漕いでみる。

 

なかなか進まない。

 

しかしそれでも楽しい。

とにかく楽しい。

 

みんなで地元の民謡を熱唱しながら舟をこいだ。

 

舟をこぐのにぴったりなリズムだし、なんかかっこいいと思ってたんだ。

 

すると、陸のほうでおばあちゃんがこっちを見て爆笑していた。

まるで民衆に人気のタイプの海賊団になったような気持ちになりみんなで熱唱し続けた。

 

そこでクルーの一人が声を上げる。

 

「めっちゃ水入ってきてるぞ」

 

足元を見ると、足首くらいまで水に浸かっていた。

 

もう磯まではすぐそこなのに・・・

 

今週のお題「人生最大のピンチ」

 

みんなで水をかき出す。しかし、どう考えても定員オーバー。

このままでは沈没してしまう・・・

 

 

ここでキャプテンである僕は苦渋の決断を下す。

 

 

 

 

「おい!お前らは海に飛び込め」

 

中学生1人、小学生2人に海に飛び込むことを命じた。

 

船長として、船を沈めるわけにはいかない。

3人の犠牲で船が助かるのならやるしかない。

すまんお前ら、分かってくれ。

 

 

3人は嬉々として海に飛び込み、気持ちよさそうに、泳いで船を押し始めた。

 

それを見た僕らも結局みんな飛び込み、全員で泳いで船を磯まで運んだ。

 

無事に磯まで辿り着いた僕らは、小学生を磯にあげたまま4人で船から釣りを開始した。

結局船の浸水は止まらず、足首まで浸かりながら釣りをすることに。

 

釣り上げた魚が船のなかを泳ぎ始めた時は、笑い過ぎて腹がちぎれるかと思った。

 

そして帰りは交代で泳ぎながら帰港した。

 

 

こうして僕ら、武蔵川海賊団の記念すべき初出航は終わり。

 

バカみたいに疲れたし、バカみたいに時間もかかった。

ほとんど泳いでたし、魚も全然釣れなかった。

 

それでもめちゃめちゃ楽しかった。

 

あんなにワクワクした時間はそれからの人生でもそうないはず。

 

 

結局この日の航海を最後に武蔵川海賊団は解散することになる。

 

理由は、僕らの武蔵丸が海軍(近所の漁師)に取り上げられたからだ。

子どもたちだけで船に乗るなんて危ない。

そもそも人の船を勝手に自分のものにするのはダメだ。

 

そんな当たり前すぎることを言われて取り上げられたのだ。

 

中学生はもう大人だろいい加減にしろ!

お前の船でもないだろ泥棒!

そんな言葉を出せるはずもなく武蔵丸を奪われた。

 

僕らの夏は静かに終わりを迎えたんだ。

 

 

 

熱くて儚い海賊時代の話である。

 

 

 

P.S. 近所の漁師のジジイは僕らの武蔵丸を塗装し直して使っていた。

僕らは陰でそのジジイのことを『船盗りじいさん』と名付けた。