むらよし農園

面白いことが書ければと。

おはようおじさんの話

「おはよー♪おはよー♪おはようおじさんだよ。」

 

 

軽快な声をあげながらリズムよく腰を振るおじさん。

それこそが『おはようおじさん』である。

 

 

 

皆さんが小学生のころ、どこからともなく現れては、いつの間にかいなくなる『変な人』っていなかっただろうか。

 

一瞬で噂は広がるが、一瞬で姿を見せなくなる。

 

そしてみんなの記憶からも徐々に消えていく妖精のような変な人。

 

これは僕が小学生時代に出会った変な人、おはようおじさんの話である。

 

 

 

 

小学校3年生の頃、僕がまだ大きな小学校に通っていた時のことだ。

 

いつものように友人と登校中、校門前にちょっとした人だかりが出来ていることに気付く。

 

「なんだろう」

 

そう思い見に行くと、

 

 

 

竹ぼうきに魔女のようにまたがり、腰を前後に振りながら

 

 

「おはよー♩おはよー♩おはようおじさんだよっ!」と軽快なリズムで歌うおじさんがいた。

 

初めて見る奇怪な生き物に呆気にとられたが、好奇心には勝てず、近づいてみる。

 

「おはよー♩おはよー♩おはようおじさんだよ!」

 

何とも言えない、耳にこびりつくリズムで腰を振るおじさん。

 

「おはよー♩おはよー♩おはようおじさんだよ!」

満面の笑みで歌い続けるおじさん。

 

たまに、

 

「おはよーおはよーおはよーおはよーおはようおじさんだよっ!」

 

というアップテンポなユーロビートバージョンも織り交ぜるおじさん。

 

 

 

 

気が付いたら僕はおじさんの横で腰を振っていた。

 

 

なんだか分からないけどすごく楽しくなり、大声で一緒に歌いながらあいさつ運動。

最終的に6人ほどが参加していた。

 

 

始業5分前のチャイムが鳴り、おじさんに別れを告げて教室へと走っていった。

 

おじさんも手を振りながら帰る準備を始めた。

おじさんは古びたバイクに大量の荷物を乗せていた。

旅人なのかな?

 

 

その日の掃除では、ほうきにまたがる男子が続出したのは言うまでもない。

 

 

 

翌日もおじさんは校門前で腰振りおはよー運動をしていた。

 

当然僕も一緒になって腰を振る。

 

その日は10人以上がおはようおじさんとあいさつ運動を繰り広げた。

 

翌日もその翌日もおじさんは校門の近くであいさつ運動にやってきた。

 

おじさんと一緒になって腰を振る生徒も日に日に増えていく。

 

しかし、その日の帰りの会で学校から

 

『おはようおじさんと一緒に校門前に集まることを禁止する』という通達があった。

 

僕らは意味が分からずブーイングをした。

しかし、一番デカい声でその通達に異を唱えていたお調子者が、女性担任からの厳しいビンタをされたことで一瞬で鎮圧されてしまった。

 

その日の帰り道に友人たちと、明日も絶対におはようおじさんのとこ行こうぜという約束をして帰宅した。

 

 

 

翌日学校に向かう。

 

 

校門が見えるくらいまで来たところで異変に気付く。

 

走って学校に行くと、いつもの場所におはようおじさんがいた。

 

 

しかしその周りには4人の警察官がいた。

 

 

 

僕らは怖くて近づけなかったし、先生たちが校門前で見張っていたので警察がどんな話をしていたのかは分からない。

 

しかしおじさんにいつもの元気はなく、理由は分からないけど、怒られているってことは分かったんだ。

 

 

僕らはおじさんを心配しながら教室に入り、授業を受けた。

その日はおじさんを心配する男子と、おじさんがいなくなって嬉しいとかぬかした女子との間で戦争が起こった。

 

 

次の日おじさんは学校に来なかった。

次の日も、その次の日も・・・

 

 

おじさんが逮捕されたという噂がまことしやかに流れ、島から出ていっただの、橋の下にいただのあることないこと言うやつが続出した。

 

 

僕らはおじさんを探すために街中を駆け回った。

聞き込みまでしたが見つけることは出来なかった。

 

 

そのうち、徐々にみんなおじさんを忘れていき、いつしかおじさんの話をする人はいなくなった。

 

 

 

 

1年後、僕は小さな小学校に転校をする。

 

 

 

そこでの生活にも慣れ始めたころ、友達から気になることを聞いた。

 

 

 

「昨日、なんかボロいバイクに乗ったおじさんがウロウロしてたんだって」

 

 

「へぇー」

 

その時は特になんとも思わなかった。

 

 

しかしその日の夜、布団の中でふと思い出す。

 

 

「あれ?昼言ってたのっておはようおじさんじゃね?」

 

そう思ったら急に眠れなくなった。

会いたいとかそんなんじゃないけど、おじさんであってほしいなと心から思ってたんだ。

 

 

翌朝、いつもより早く家を出て学校へ急ぐ。

 

 

 

 

校門前には、おはようおじさんがいた。

 

 

 

おじさんはもう竹ぼうきは持っていない。バイクのヘルメットをかぶったまま

 

 

 

「おはよーおはよーおはよーおじさんですよっ!」

 

 

と言って手拍子をしていた。

 

『だよっ』から『ですよっ』に変わっていたのが気になったが、紛うことなきおはようおじさん。

 

 

僕はとてもうれしくなり、すぐに一緒にあいさつ運動をした。

 

その後始業のチャイムが鳴るまで一緒に色んなことを話した。

不思議と何の話をしたのかほとんど覚えていない。

唯一覚えているのは、おじさんは日本各地を旅しているということ。

理由があって「おはよう」と言って回っているということだけだ。

 

 

それから数日してまたおじさんはいなくなり、それからもう会うことはなかった。

 

 

おじさんがどんな理由で日本中を回っているとか、お金はどうしてたのかとか、どこに寝泊まりしてたのかとか・・・

 

今になって思えば知りたいことだらけだ。

 

でも、あんまり知りすぎなかったからこそ、僕の心に深く残ってるのかな。

 

 

 

 

THE BOOMの『ウキウキルーキー』という曲がある。

この曲を聴くといつもおじさんを思い出す。


www.youtube.com

 

おじさん元気かな。

 

 

 

みなさんも心の奥底の記憶を探ってみてください。

 

もしかしたらあなたもおはようおじさんに出会っているかもしれませんよ。