昨日のリフレッシュの甲斐もあり、早朝に軽快な目覚め。
朝食を食べ職場へ。
今日は激しく忙しく、気が付いたら18時になっていた。
働いたな~。
そう思いながら車に乗り込む。
スーパーに行き、一番搾りの糖質0をかごに入れた。
まだ学生だった頃、韓国産の1本90円の第3のビールを飲んでいた。そしてその生活は大学を卒業した後のフリーター時代まで続く。
こんないいビールが毎日買えるようになるなんて。
そうか、もう僕は下車していたのか。
大学を留年し、学費を稼ぐためにバイトを詰め込み、そのせいで学校に行けなくなりまた留年するというバカの極みのような生活をしていた。
ほぼ毎日のレギュラーバイトに加えて、空いた時間に日雇いのバイトを入れる。
さらにその隙間の時間を縫ってパチスロに出かける毎日。
働けども働けども学費分の50万円は遠い。
バイト先に食パンを2枚ジップロックに入れて持っていく。
昼休みに近くのスーパーの1個19円の激安おやつコロッケを買って挟む。
これが基本的な昼ご飯。
一袋15円のソースさえケチっていた。
そのくせ、いっちょ前に酒ばっかり飲んで無駄遣いしてばかり。タバコを減らすっていう発想もなかった。
当時の僕が乗っていた列車の名は「苦役列車」。
留年したのも、金がないのも、自業自得だが、こんなにも浮上出来ないものなのかと思っていた。
日雇いのバイトに出かける。
集合場所にはいつものメンバーが揃っている。
このような日雇い界隈では、ほとんどメンバーは変わらない。
少ない人数の精鋭たちで仕事を回している。
年齢も様々な人々が働いていて、僕も大分溶け込んでいた。
仕事が始まるまでの時間や休み時間。酒や、女、ギャンブルの話で盛り上がる。
みな明るく仕事もできる人たちだった。
そこに悲壮感のようなものはなく、好きなことをして生きてるという揺らぎないものが見えた。
そんな彼らと仕事をする日々は楽しかったし、なんというか安心感なのか、居心地の良さを感じ始めていた。
生活は相変わらず苦しいし、浮上のきっかけはつかめていないのにも関わらず。
30代40代の人たちのなか、まだ僕は大学生だから大丈夫。そんな気持ちがどこかにあったんじゃないだろうか。
そんなある日のこと、いつものように日雇いのバイトに出かけると、30代のバイト仲間のおじさんが就職が決まったという話を聞いた。
心から喜べる話で、僕は自分のことのようにうれしくなった。
しかし、同じく30代のバイト仲間のおじさんは何とも言えない顔をしていたのを覚えている。
あぁそうだよな。不安がないわけないよな。
みんなどこかで、「このままでいいのか」という気持ちを抱えながら明るく振舞っていたんだな。
そんなみんなの顔を見てると、なんだかたまらなくなり、それからしばらくして日雇いの誘いにも行かなくなった。
僕が「苦役列車」を読んだのはちょうどそのあたりだ。
芥川賞を受賞し、著者の西村賢太さんの人間的な面白さがテレビで取りだたされ、一時注目を集め、映画化もされた作品だ。
とても面白い作品で、当時の自分の状況などから、なんとか主人公の北町貫多に重ね合わそうとしたが、どうやっても自分とは結び付かなかった。
貧乏でその日暮らしで酒とたばこにおぼれているのは一緒だったが、北町の持つなんともいえない暗さや、狂気を自分に感じることが出来なかった。
自分なんてこんなもんかと諦めかけていたときでもあったから、ある意味ではこの作品に救われたのかもしれない。
時は経ち、好きなビールを買える程度の人間にはなれた。
昔乗っていたはずの列車からは降りることが出来ている。
それでもまだ切符は握ったままだ。
いつあの時代に戻るかもしれないとはうっすらまだ思ってる。
それならそれでともう一度「苦役列車」を読んでみよう。
北町貫多を見て今の自分はどう思うんだろう。
西村賢太さん、いい作品をありがとうございます。
ご冥福をお祈りします。