午前3時15分。
けたたましいサイレンが鳴り響く。
先日から『津波警報』や『緊急地震速報』が続いていたことで寝ぼけた脳みそにも一気に緊張が走る。
スマホからではない。
外から聞こえる。
どうやら町内放送のようなこの一帯全域に流れるものだった。
なんだこの音は。
非常に不安を煽る音だ。
ましてやこんな夜中に聞くとミサイルでも落ちてくるのかと怖くなる。
数十秒の後、消防車のサイレンがあちこちから聞こえはじめる。
どうやら近所の家事を知らせるサイレンだったようだ。
窓を開けて消防車の行方を確認。
家からはまぁまぁ距離はある。
なら寝るか。
いや寝れるかこんなもん。
あんな音聞いて消防車の行方を追って、スマホで火事現場確認して
寝られるか。
4時半まで粘ったが諦めて布団から出る。
ハーブティを淹れてみる。(やかましいな)
ゆっくり飲みながら、職場に持っていく用のルイボスティも。
なんだか世界に僕しか起きてないんじゃないかという気持ちになる。
少し寂しくなってきたのでテレビをつける。
朝の情報番組の生放送が始まっていた。
生放送はいい。
僕以外に起きてる人がいることを確認できるから。
これでもう寂しくない。6時前に朝ごはんを食べて、そろそろ行くかってときになり
眠くなってきた。
知ってた。こうなることは。
堪えて出勤するも、ルイボスティ忘れた。家帰ってどんな顔で飲めばいいんだよ。
今日は会社の会議。
様々な研修を織り交ぜながら進む。
そして話は顧客との関係についてというややこしいものになる。
このあたりで脳内に『緊急ピンチ速報』が流れ始める。
【 もう間もなく、あなたを対象とした苦言が始まります。メンタルを強く持ち、何食わぬ顔の準備をしてください 】
そう警報が流れた後、上司が全員に向けて注意するような感じで話し出す。
しかし内容はピンポイントで狙い撃ちをしているようなもん。
これはヤバいな。
完全に僕をはじめとした数人の若手に向けて話してる。
少し周りを見回すと、心当たりがあると思われる数人が頭を低くし、なんとも言えない顔をしている。
僕も全く同じ体勢だ。
他の人も6割くらいの人が分かっている顔をしている。
「あーあいつらね」と。
「あのバカたちね」と。
まだセーフだな。まだ過半数とられただけ。まだ巻き返せる(巻き返せない)
ここでさらに脳内警報がなる。
【 ここからはさらに細かい事例を紹介されます。予想通りあなたの事例です。個人名は出ませんが分かる人には分かる内容です。今すぐに感情を無にし、気配を消してください。】
ヤバい。
予想外の攻撃に動揺する。
いそいで『絶』をするも時すでに遅し。
あちこちで失笑のようなものが漏れる。
なかにはチラチラとこっちを見てくる人もいる。
いっそ殺してくれ。
しかしまだ8割にしかバレていない。まだ大丈夫(大丈夫じゃない)。
同じ過ちを犯しているだろう仲間たちとアイコンタクトを交わす。
よし、まだみんなの目は死んでいない。
まだ戦える顔している。
なんとかこの会議が終わるまでしらこい顔して逃げ切るぞ。
そのとき
これまでよりもさらに大きなアラートが
【 キケン!キケン!急いでこの会場から出てください。】
なんだ?そこまでのことが起こるのか?
と、硬直していると上司が、
「まぁむらよしくんのように、こういった事例でもピンチをチャンスに変えることが出来ているのは・・・」
個人名キターーーーーーーーーーーーーー!!
全員に僕の仕業ということがバレたーーーーーーーーーー!!!
僕がやらかしていることが全員に知られたーーーーーーーー!!
雰囲気ちょっと褒めて、持ち上げた感じ出してるけど全然効果ないーーーーーー!!
むしろ、
「あぁ今回の研修の原因あいつか」と思われてるーーーーー!!
みんな僕を見てにやにやしている。
僕は顔から出せるもの
汗だったり、火だったり、魂だったりを出し尽くして真顔になってた。
会議が終わり、同じ穴のムジナたちに声をかける。
みんなで傷を舐めあうことでなんとか正気を保っている。
みんなからは
「むらよしさんが弾除けになってくれたので助かりました」
と言ってもらえた。
もうそういうポジションでやっていこかな。
今ところ
「未」
過去を振り返っても戻れません。
やらかしたことは仕方ありません。
やらかしたといってもまだ「未」遂なので平気です。
もう「未」来にかけるしかありません。
まだ現れぬ「未」知なる敵に気をつけて・・・
全然大丈夫。
こんな時はこう言う。
「OK余裕。未来は俺らの手の中。」