少し遠出して昼食を食べた帰り、ゴルフウェアを見るためにゴルフショップに立ち寄った時のこと。
電話がかかってきた。
画面を見ると、見知らぬ番号。
高知県内の固定電話からかかってきていることは分かるが、全く見覚えがない。
また、何か連絡が来るような心当たりもない。
普段はあまり知らない番号には出ることはないが、高知県内の番号だしなぁと思い、出ることにした。
「もしもしむらよしです。」
「もし・・・し・・・よし・・・の電話・・・・・しょうか・わたくs・・・・・の・・です。」
ちょっと聞き取りづらいにもほどがある。何者なのかも聞き取れなかった。
この人の滑舌と、こっちのゴルフショップの店内BGMのボリュームで全く聞こえない。
とりあえず用件を聞こう。
「はい。なんでしょう?」
「えーーーっとです・・・・・あの・・・・・・が非常・・・・不足してまして・・・・できれば・・・・・来ていただきたい。」
えっ?
何が不足してるの?
残高なの?なにかの残高なの?
僕のように脛に傷を持つものは、こういうとき余計にテンパってしまう。
「すみません、もう一度言っていただけますか?」
「ですかr・・・・不足しゆ・・・・土日にでm・・・・・来てもらえないで・・・」
ダメだ。全然聞こえない。
でも聞き取れた部分をつなぎ合わせると、僕がおそらく何かを不足させていて、それを土日にもってこい、払いに来いという内容のようだ。
しかし全く思い当たるものはない。
昔ならいざ知らず今の僕にそんな心配はないはずだ。
はっまさか、詐欺か?
詐欺なのか?
それだったら面白そうだぞ。
僕は急いでお店から出てもう一度聞いてみた。
「すみません、聞き取れなかったのでもう一度だけお願いします。」
「あのですね、O型の血液が大変不足しておりまして、もしご都合よろしければ土日にでも献血しに来ていただけないかと思いまして連絡させていただきました。」
えっ献血?
献血の営業電話?
驚くことに電話の相手は高知県の献血ルームの方だった。
僕は働く前まではたまに献血していた。
しかしもう何年もしていない。
そんな僕にまで電話をかけてくるなんてよっぽど足りていないのだろう。
「分かりました。そしたら今から行きます。」
電話の方はとても恐縮していたが、うれしそうだった。
献血ルームの前には
『O型:非常に困っています』という張り紙があった。
どうやらホントに不足しているらしい。
献血ルームにつき諸々の問診などを済ませていざ献血へ。
僕のほかに3人ほどの男性が献血中(採血中?)だった。
僕も献血台に横になる。
目の前にテレビがあり、音は頭を置いてる部分から聞こえてくる。
とても居心地がよい。
そして僕の右腕に針がぶっささり、血が抜かれ始めた。
僕はいつも針が刺さるのをガン見してしまう。
スッと刺さった針からは勢いよく血が出ていき始めた。
僕はアカギのような気持ちになりながら、血が抜かれるのを見ていた。
ひとしきり腕を眺めて、さてテレビでも見ようかと番組表を見ていると
「はい。終わりました~お疲れ様です」
とまさかの終了宣言。
僕より先に始めてた他の人は終わっていない。
僕だけ何でこんなに早いのか。
痛風だからか?
理由を聞くと、
「むらよしさんの血管が非常に優秀だからです」
と褒められた。
聞くと、本来10分ほどかかるそうだが、僕は半分以下の時間で終わったそうだ。
「それは血液がサラサラだからとかそんな感じです?」
僕の食生活から考えて、絶対にそんなはずはないのに、一応聞いてみた。
すると
「いえ、血管がいいからです。」
ちょっとくらいサラサラって言ってくれてもいいのに・・・
「血管がいいとは?」
さらに聞いてみた。
「えーっと、すごく・・・太いです・・・」
と、喜んでいいのかは分からないが、妙に興奮するコメントを頂いたので僕は大満足で献血の部屋を後にした。
帰り際、多くの職員さんからお礼を言われながら施設をでた。
そんなに大したことはしていない。
ただ暇だったのと、余ってる僕の血をあげただけだ。
それだけのことでこんなに人から感謝されるとは。
コロナが流行してからは、献血に行く人が減り、常に血液不足の状態だそうだ。
僕みたいに血液を持て余らせてる人は、たまには行ってみてはどうでしょう。
こんな簡単に、そして確実に誰かの役に立てることなんてそうないかもしれない。
これからは、おじさんからの電話がなくても自主的に献血するようにしよう。
僕の太い血管はきっとそのためにある。