「大人様ランチひとつ」
車の中で練習をする。
頼むのに少し抵抗のあるネーミングだ。
『かつや』の期間限定商品を全部食べることを今年の目標にしている僕にとっては避けて通れない道。
こんな変な期間限定商品頼むおじさんなんてあんまりいないだろうな。
だが仕方ない。
恐れず恥ずかしがらず堂々と。
ビシッと注文するために車内で繰り返し発音していた。
到着して店内に入る前に、大きな看板が。
でかでかと大人様ランチの写真が貼ってある。
そしてそこに
『フェア商品完売しました』
の張り紙が。
めっちゃ頼まれてるやん。
おじさんばっかりの店で完売してるやん。
みんなかつや大好きやん。
目的を失った僕は、意識を失ったまま気が付いたら『カツ丼 竹』を持ち帰っていた。
カツ丼とビール。
なんだか文化人になったような気がする(なってない)
渋谷にある『瑞兆』というお店をご存じだろうか?
駅から10分以上歩き、席数も8しかない小さな店だが、行列の絶えない大人気店だ。
ここのカツ丼は文句なしにカツ丼界のトップ戦線にいる。
味はもちろん、見た目のオリジナリティも。
しかし真にこの店を名店たらしめるのは、メニューにある。
メニューは
・カツ丼
・カツ丼ダブル(卵2個)
・瓶ビール(サッポロ)
だけである。
この潔さこそがこの店の真のかっこよさだと思う。
初めて訪れた時の感動は今も忘れない。
話は逸れたが、ビールとカツ丼という組み合わせには、相性がいいとか、美味しいとかだけではない「かっこよさ」が内包されてる。
そう思うのは僕だけでしょうか?
カツ丼のあたまの部分でしばしビールをキュッといく。
ビールがなくなってきたらご飯を。
一週間の疲れを癒す男の夕餉。
連休明けからの怒涛の5日間は心身を削るに十分な期間。
早くこの日常にアジャストしていかねば。
カツ丼とビールを食べ終えたら黒ビールを。
金曜ロードショーのオードリー・ヘプバーンを見ながら。
これまでも何度も見てきた『ローマの休日』
こんなにきれいでかわいい人間はこの世にいないとずっと思っていたし、今もその気持ちは変わらない。
しかし歳を重ねて、仕事終わりのくたびれた状態で見ると、これまでとは違う見え方が。
これまでオードリーしか見えてなかった。
だが、どういうことだろう。
オードリーのお相手役、ジョー・ブラッドレーを演じるグレゴリー・ペックのなんとかっこいいことか。
当時37歳だというグレゴリー。
貫禄と渋み、スタイルの良さ。時折見せるお茶目な笑顔は魅力に溢れていた。
自分があと数年であんな雰囲気になれるか?
いや無理だろう。
日本人には日本人の目指す姿があるはずだ。
姿や形は違えど、あんな渋みのある大人を目指そう。
カツ丼とビールが似合うようなね。
僕は急に現れた美しい王女を、傷つけることなく上手にアテンド出来るかな?
今から新聞記者に転職すれば・・・
ベスパ買えば・・・
そんなこと考えながら就寝。
いつになく深い眠りだ。
こんな花金もあるのさ。