むらよし農園

面白いことが書ければと。

嫌いにならない

『寒い』というのが当たり前になってきている。

 

どうしたってこれ以上暑くなっていくことはない。

 

だけどまだまだ半袖シャツで粘っている。もちろん通勤には上着は必須だが。

 

「いやー寒いっすね」という挨拶をする。

 

「言ってることと着てる服がちぐはぐだな」(カミナリたくみ風)

 

そんなやり取りが毎朝のルーティン。

悪くないだろう。

 

 

今週もよく頑張ったのではないだろうか。

毎日遅くまで仕事をし

毎日毎日よく食べてよく飲んでいた。

 

ただ仕事で疲れるだけでは飽き足らず、内臓まで疲労させていくのは生粋のM。

僕のディフェンシブな部分が存分に出たウィークデイとなった。

 

 

そんな日々を〆る花の金曜日。

 

 

行かないわけにはいかなかった。

 

別にもう正直お酒飲みたいわけでもない。

 

久しぶりの飲み会ならいざ知らず、10月入ってかなり飲んでる。

 

なんなら今週の体はビアリーよりアルコール度数高いと思う。

 

 

それでも行く。

 

最初の生ビールが運ばれてきた。

 

 

美味しそうだ。

 

我ながらバカなんだと思った。

 

 

ゴクっと一口。

 

「嫌いにならないねぇ」思わず口をついて出た。

 

 

美味しいとか、やっぱこれだ、とかもうそんな次元ではない。

 

僕はお酒が好きなんではなくて「嫌いにならない」んだ。

 

自分の新しい気持ちに気付き、ご機嫌のままに一次会を終えた。

 

 

ビール4杯、ハイボール5杯。

 

 

何かを食べた記憶はあんまりない。悪い癖だ。

 

 

 

そのままのメンツで2次会へ。

 

お街までは少し距離があるということで近所に住んでる後輩が家でやりましょうと提案してくれた。

 

手ぶらじゃ悪いからと『えなこ』の写真集をプレゼントした。

 

 

満員御礼の部屋で2次会はスタート。

 

みな思い思いのお酒を飲む。

 

僕はなぜか赤ワインを飲んでいた。

 

後輩が手渡してきたからだ。

ミニボトルの赤ワインを飲み干すとまたも後輩がお酒を手渡してきた。

 

 

泡盛

 

 

バカかこいつは。

 

僕を酔わしてなんのいいことがあるんだ。

 

そのまま飲む僕はもっとバカなんだろうけど。

 

僕が泡盛を飲みながらえなこの写真集を熟読していると、不意に後輩が僕の写真を撮って見せてきた。

 

その写真に写る自分の姿を見て『ガツン』とテンプルにフックを浴びたような衝撃が走った。

 

おそらくだが後輩は、いい年こいた大人が写真集を前のめりに見ている滑稽な様を見せようと思ったのだろう。

 

 

だがそんなことは全く問題ないし眼中にない。

 

 

僕が衝撃を受けたのは

 

 

 

 

ハゲていたからだ。

 

 

 

もともとハゲているということはネタにしてきたし、頭頂部が薄くなっているのも事実。

 

しかしそんな僕の予想をはるかに超えるほどにハゲていた。

 

 

「ハゲてるぅぅぅぅ」と叫び写真集に顔をうずめる僕。

 

 

そんな僕の頭頂部を撮影し再び見せてくる後輩。

 

 

 

 

「さっきよりハゲてるぅぅぅぅぅぅ!しゅごいハゲてるぅぅ!」

 

 

 

もはや理性などは微塵もなかった。

 

 

僕の髪を10年以上切ってくれている理容師さんは

 

 

「全然まだまだ大丈夫やで」と言ってくれてたのに。

 

あれも嘘やったんか。

 

カットが終わり、鏡をつかって後ろを見せてくるときにも

かたくなに頭頂部が映らないように絶妙な鏡さばきをしてたのも僕がハゲていたからなんや。

 

 

全てを悟った僕は

 

 

 

「いままでお世話になりました。」

 

 

と告げ、ひっそりと部屋を後にした。

 

アパートの前の堤防に座り込み

 

ひとり泡盛をあおった。

 

 

「そんなにはハゲてないよ」

 

泡盛だけが僕を励ましてくれる。

 

そうか。そういうところが

 

 

嫌いにならない理由なのかもな。