6時過ぎに出社する。
昨日持ち帰った仕事を何一つとして触らぬまま朝を迎えたせいである。
ひんやりした、澄み切った空気を大きく吸い込む。
多分一番空気が美味しい時間ではないだろうか。
「新鮮だよ。」
東北なまりの言葉が聞こえてきそうな秋晴れにハートをつかまれる33歳。
いっちょやってみっか。
とても忙しく仕事をこなしていた夕方
携帯にメールが届く。
めったに連絡をとることのない知人からだった。
そのメールには、以前お世話になっていた方が亡くなったと書かれていた。
冗談抜きで、携帯の画面から出てきた光線に胸を刺されたような感触が。
なんてこった。
昨年一度飲んだっきり会えていなかった。
コロナを理由に飲む約束すら出来なかった。
こんなことなら・・・
いや、よそう。
詳しいことはまた追って連絡してくれるとのこと。
もちろんそこからは仕事なんか手に着くわけはない。
うわの空で山のように積まれた書類を眺めるだけ。
こんなに汚いデスクは久しぶりだ。よほど忙しいんだろう。
なぜか自分のことなのに他人事のように思えてきた。
とりあえず僕と同じようにお世話になっていた先輩二人に連絡をする。
2人とも同じ反応だった。
全く仕事を出来ぬまま座っていると先輩の一人から電話が。
「飲みに行こう」
そう言われるのはなんとなくわかっていた。
その方はお酒が大好きな人だった。
毎日毎日、酒の匂いのしない日はなかった。
だからこそ、今日飲むしかないだろう。
もう一人の先輩には僕から電話した。
「今日行かないと意味ないな」
先輩も同じ気持ちだった。
近くの居酒屋に集合して飲み始める。
誰かが思い出を話すと、これまで忘れていた思い出が僕の脳みその急上昇ワードとして出てくる。
たくさんあるじゃないか。
お酒も進み様々な話題に変わっていく。
そんななか、先輩が
自分が亡くなったことで悲しむ人がいるのを、その人が見たらなんというか当てよう大会が始まった。
トップバッターは先輩A
「人が一人死んだくらいでなにをおたついてるか」
おぁ~言いそう。
次は僕
「いつか死ぬことくらい分かってたでしょ?」
言いそう。
最後は先輩B
「わしは好きなことしてきたんだから。」
うん。どれも言いそうだ。
今回亡くなった方はこんな感じの人だった。
すこしだけしんみりとしたが
亡くなった日にその人のことを思って酒を飲む人間がいるだけで
その人の人生はきっといいものだったと思う。
そんな風に飲み会を〆て外へ。
先輩がすっと「echo」を出してきた。
「あの人これ吸ってたやろ?」
確かにそうだった。
普段は吸わないがこんな日はいいだろう。
紫煙をくゆらせてぼんやりと見上げる。
あー結構キツいタバコだな~
空に伸びる煙が夜空に溶けていく。
届くかな。