むらよし農園

面白いことが書ければと。

死がひょっこり顔を出してきた話

今週のお題「ケガの思い出」

 

暑い暑い夏の日。

 

僕は友人と木陰で喋っていた。

 

そこは集落に一つしかない商店の前に生えてる、大きなインドゴムの木の下。

 

 

「ホントだって!テレビで見たから!」

 

僕は友人に熱弁されていた。

昨日のテレビで見たというどうでもよさそうな内容を嬉しそうに語ってくる。

 

 

「素手でラムネの瓶は割れるんだって!!」

 

 

極真空手の生みの親、故大山倍達先生がビール瓶を手刀で切ったのを昔観たことがあるが、ラムネの瓶を素人が割れるわけはない。

 

僕はそう思い友人の話を聞き流していた。

 

友人は、

 

「今からやろうぜ」

 

と言い、商店へと入っていった。

 

 

2分後、友人はラムネ2本とキャベツ太郎を買って店から出てきた。

 

ラムネを奢ってまで説を検証したいなんて健気な男だ。

 

 

まずはラムネを飲み干す。

暑い中で飲む冷え冷えのラムネのうめぇことうめぇこと。

 

改めてラムネの瓶を見る。

 

分厚くてなめらかで、どこかずんぐりむっくりしている。とても素手で割れるようなものではない。

 

僕はガセネタだと確信して飲み干した。

 

 

友人も飲み終えており、ここからが本番だと言わんばかりに目をらんらんと輝かせている。

 

 

友人はやり方を教えてくれた。

 

まずはラムネの瓶の底のほうをしっかりと握る。

 

そして、もう片方の手で思いっきり瓶の先端を叩く。

 

それだけだという。

 

そんなんで割れるわけないだろう。

 

そう思っていると友人は得意げにこう言った。

 

 

「中に入ってるビー玉を使って割るんだよ。」

 

ラムネの瓶にはビー玉が入っている。

 

そのビー玉を激しく瓶の内側に衝突させることで瓶を破壊するというのがやり方なんだそうだ。

 

 

ほう。

 

これは案外割れる可能性はあるな。

 

体の外側を攻撃する剛の空手に対し、体の内部を攻撃する『打震』(鎬紅葉の必殺技)

のようなものか。

 

友人が早速やってみることに。

 

左手に瓶を持ち、狙いを定める。

精神を統一し、呼吸を整える。

 

「あぃぃぃぃぃいいぃぃぃいい!!!」

 

変な掛け声とともに右手を振り下ろす友人。

 

『どぅん』

 

という鈍い音が響く。

 

ラムネ瓶にはヒビ一つ入らない。

 

 

友人は照れ臭そうに笑ってもう一度集中し始めた。

 

 

そして、

 

 

「おぃぃぃいいぃぃぃぃい!!」

 

という変な掛け声とともに渾身の力で右手を振りぬいた。

 

 

『どぅん』

 

という鈍い音とともにラムネの瓶は回転しながら友人の左手を離れて地面に落ちていく。

 

ラムネ瓶は地面に落ちてなお割れなかった。

 

 

友人は諦めた。

 

 

「やっぱりな」

 

僕はそう思いながらも自分もやってみようと思った。

 

僕は右手にラムネ瓶を持つ。

 

底のほうをしっかりと持ち、瓶の中のビー玉に意識を向ける。

 

このビー玉が中で暴れまわるのを想像する。

こういうことは想像力が最も大事なのだ。刃牙でも言ってた。

 

静かに息を整えて、僕は思いっきり左手を瓶に向けて振り下ろした。

 

『ガチッッ!!!』

という確かな手ごたえを左手に感じた。

 

 

その瞬間

 

 

『ガシャーーーン』

 

 

なんとラムネ瓶は粉々に砕け散ったのだ。

 

 

僕も友人も大きな声を上げた。

興奮して爆笑しあったあと、ふと冷静になる。

 

 

僕はまさか割れるとは思っておらず、割れた後のことを考えてなかった。

 

これ片付けないとヤバいよな。

 

お店の前で瓶が割れてていいわけないもんな。

 

そう思って地面に落ちてるラムネ瓶の破片を拾おうとして異変に気付く。

 

ラムネ瓶の破片が落ちているところに赤い液体が溜まっている。

 

最初は何か分からなかったが、それが血であることにすぐに気付いた。

 

僕の左手が赤く染まっていたからだ。

 

僕の左手首の内側から、湧き水のように血があふれ出ていた。

 

「あっこれはダメなやつかも」

 

切った場所が場所だけに僕は慌てた。友人がお店に飛び込んでティッシュをもらってきた。

 

切れた個所をティッシュで押さえる。

ティッシュを何枚も重ねた状態で押さえているにもかかわらず、ものの数十秒でティッシュは真っ赤に染まり、血が滴るようになった。

 

「死っ・・・」

 

恐ろしい想像が一瞬頭をよぎる。

一瞬だが、とてつもなくリアルな恐怖が脳内を埋め尽くした。

こんなんで死んだりってするのかな?

 

 

一気に体温が下がっていくのを感じる。

 

ヤバい。

 

地面に溜まってる血の量も笑えないほどになっている。

 

この量はさすがにヤバいはず。

 

僕は再びティッシュをガサっととって、きれいに折りたたんで傷口に当てた。

 

そしてその上からガムテープできつめに巻いて止血を試みた。

 

数十秒と持たずガムテープからは血が溢れてくる。

 

まだ距離はあるけれど、確実に見えるところまで『死』が近づいているのを感じた。

 

 

もう一度同じように止血を試みる。

 

お店の前でこんな状態なのを見られたら怒られると思い、僕はガムテープを貼った状態で自転車に乗って家に帰ることにした。

 

瓶の破片や血の処理は友人に任せて僕は急いで自転車をこいだ。

 

 

家までは自転車で3分くらい。

 

途中、左手からぽたぽたと血が垂れてるのに気づいた。

 

あれほど頑丈に止めたのに・・・

 

「こんなに血が点々としてたら敵に家がバレちまう。どうしよう。」

 

僕は出血の影響なのか、真剣にこんなことを考えていた。

 

家にたどり着いたころにはガムテープから血が完全に溢れており、止血の意味をなしてなかった。

僕は裏口から風呂場に直行し、タオルを使って止血を試みる。

 

頼む、止まってくれ!

 

 

幸いなことに、タオルを1枚犠牲にするくらいで血の勢いは止まってくれた。

 

その後消毒をして絆創膏を貼った。

 

夜寝るまでの間に、二度も血が溢れて貼りなおすことを余儀なくされたが、それだけですんだ。寝るときには完全に止血に成功していた。

 

 

実はそのときの傷は今も少し残っている。

赤い丸の中の小さな傷

僕はこの傷跡を見るたびに、あのときの焦りや、死というものがひょっこり近づいてきた感覚を鮮明に思い出す。

 

バカみたいに暑くて、バカとしか言えないほどバカだった中1の夏の出来事である。