むらよし農園

面白いことが書ければと。

人生で初めて滝行をした男 ~人は簡単には変わらないという話~

あれは大学6年生の冬。

 

極貧と言って差し支えのない生活を送っていた。

 

金がないだけではない。

バイトして得た金をギャンブルと酒とタバコにつぎ込むという、『自堕落』というにふさわしい人間を生きていた。

 

そんな生活をしながら迎えた2013年の年明け。

 

僕と友人とで新年早々パチンコでタコ負けを喫し、何もすることが出来ない程打ちのめされていた時のこと。

 

友人と二人でゴロゴロしながら自分らの何がいけないのかを話し合っていた。

 

「こんなに負ける人って他にいるかな?」

「このままじゃダメすぎる。何かを変えないと」

「でも何をどう変えたらいいんだろう・・・」

 

 

 

「よし!滝に打たれに行こう」

 

賢くない二人で話し合った結果こうなった。

 

賢ければこんな生活してないし、賢くないからこそここまで追い込まれるのだ。

 

このような流れで僕と友人は、自分たちと同じジャンルにカテゴライズしている後輩二人(つまりダメ人間)に声をかけ、まだ松の内も明けていない日の午後に滝行を決行した。

 

場所は高知駅から車で30分ほどのところにある『山姥の滝』

近い

かの有名な『ゴトゴト石』のすぐそばにある滝だ。

 

この山姥の滝を選んだ理由は特にない。近かったからである。

 

ボロボロの車に乗り込んで滝に向かった僕らダメ人間4人。

この日はとても寒い日だったことを覚えている。最高気温9度、最低気温は0℃という滝行をするにはなかなかに厳しい日だった。

 

まぁ言うてもテンションでなんとかなるっしょ?

 

大学生特有の万能感というか、世間知らずさと謎の自信しか持ち合わせていない僕ら4人はウェイウェイ言いながら滝に到着した。

 

滝は思ったよりも山深いところにあり、地上よりも体感で3℃は寒く感じられた。

 

そして目の前の滝はかなり本格的な滝で、水量も相当なモノだった。

 

目の前でごうごうと音を立てて落ちる水の迫力に気おされ、僕らダメ人間は・・・

 

 

「やめる?」

 

とダメ人間らしい言葉を吐いた。

 

とりあえずこの気温でこの滝は無理じゃね?

そんな空気が出来つつあった。

 

しかしここまで来て何もせず帰っては本当にダメ人間のままだ。

 

なんとかしたい・・・

 

僕はなんとも打破しがたい苦しい現状と、その状況を生み出してる自分のダメさをどうにかしたかった。

 

みんなは完全に気持ちが折れかけている。

 

 

僕はみんなを鼓舞するためにどうしたらいいのか考え一つの行動に出た。

 

 

 

全裸になる

 

 

何も言わずおもむろにその場で服を脱ぎ、僕は全裸になった。

 

みんなが爆笑してくれた。

 

僕は大きな声で提案する。

「ジャンケンで負けたやつからとりあえず滝に打たれよう。」

 

全裸になっておいて先陣を切ってまでは行きたくないという僕の心の弱さには誰も突っ込まない。

 

みんなのテンションも一気に爆上がりだ。

 

大声でジャンケンをし、僕は3番目に滝に向かうことになった。

 

ありえない程寒いのでもう一度服を着る。

 

先頭の友人が全裸で滝に向かう。

 

水に片足をつけた瞬間に冗談抜きで2mくらい飛びあがって戻ってきた。

 

 

「絶対に死ぬ」

 

ただ死ぬだけでなく絶対をつけるあたり、なかなかの冷たさだったのだろう。

 

僕らは大声で彼を鼓舞した。

 

彼は絶叫しながら滝つぼへ向かう。

 

 

そして滝つぼを目の前にすると、ひときわ大声で叫んだかと思うと一気に滝に飛び込んだ。

 

滝の轟音に彼の声はかき消された。

 

え?消えた?

 

滝の大きさと水量によって彼の姿は見えなくなった。

 

数十秒後彼は無事に滝から出てきた。

 

彼の眼はランランと光り、体からは湯気が出ていた。

 

そしてとんでもないテンションで次の奴を滝に送り出した。

 

2番目の彼も無事に滝行をクリアして僕の番。

 

再び全裸になり僕は滝へ向かう。

 

足を水につける。

 

声にならない叫びをあげた。

これは無理だ。

とてもじゃないが動けるような温度じゃない。

 

本気でそう思った。

 

しかしここでやめるわけにはいかない。

 

 

僕は意を決して滝に向かい、考えることをやめて滝に突っ込んだ。

 

 

まず感じたのはその圧倒的な冷たさ。

 

これまでに感じたことのない程の冷たさに脳は急激に回り出す。

 

え?死?・・・

 

走馬灯のようなものだろうか、目に見えてる景色と駆け巡る思考にギャップが生まれてくる。

とりあえず早く脱出しなければと考え足を動かそうとするも動かない。

 

そこでようやく滝のエネルギーの大きさに気付く。

 

足がすくんでとか、寒くてとかでなく、単純に水が重すぎて体が動かないのだ。

 

滝ってこうなってたのか。

体の危機とは裏腹に妙に冷静にそう思った。

 

ここで急に脳みそのスイッチが切り替わり、僕は寒さを感じなくなった。

こうなったらもう思う存分打たれたろう。

 

そんな思考になった。

 

時間にしたら1分も経っていないと思うが、体感では5分くらい滝に打たれていた。

 

そして徐々に体を動かし滝から脱出した。

 

滝からあがった僕は、寒さを完全に超越した存在になっていた。

 

さっきまであれほど寒いと思っていた気温も全くといっていい程気にならない。

 

なんならポカポカしていた。

 

気持ちは上がり、やり遂げた達成感と高揚感に支配されていた。

 

僕は生まれ変わった。

 

そういった確信めいた予感が僕の身体を貫いている。

 

4人全員がそう感じていたと思う。

 

こうして初めての滝行は予想以上の成果をもって終了した。

 

帰りの車内でもみんな興奮していた。

これほどまでにすごい経験はなかなかない。

 

みな口々に滝に打たれた後の自分の変化を語っていた。

 

これまでのダメな自分とはさよならだ。

 

ありがとう山姥の滝。

 

自分を変えてくれた滝に感謝し、これからは新しい自分を生きるんだ。

 

そう固く決意して下山。

 

 

 

 

そしてその足でみんなでパチンコに行き、そのまま雀荘へ行って徹マンしたのである。

 

 

この清々しい気持ちなら勝てると思っちゃったんだよなー

 

ダメな人間というやつは滝に打たれたくらいでは何も変わらないというお話でした。