「あんた行かんの?はよ起きんともう行くよ!」
母と弟に無理やり起こされ、絶望の表情でのそのそと起き上がる。
パジャマのままサンダルをつっかけ玄関を出る。
玄関に吊るしてあるラジオ体操カードを首からかけるのも忘れない。
澄みきった空気の海沿いの道。
毎日歩く道だが、この時間だけは別の道みたいな顔をする。
近所の公園では集落の子どもたちとその親達、畑に向かう前のおじいちゃんおばあちゃんが集まっていた。
友人たちとぶっきらぼうに挨拶を交わし、なんとなくいつものポジションに立つ。
『あーたーらしーいーあーさがきた…』
ラジオ体操が始まる。
本日はどこどこ県どこどこ市のなんとか公園に来ております。というアナウンサーの挨拶から始まるラジオ体操はそんなに嫌いではなかった。
ラジオ体操を終えて、友人に遊びに誘われる。
いつもならそのまま遊びに行くのだが、今日は断らざるを得ない。
今日は母親の仕事が休みなのだ。
つまり今日は宿題をしないといけない。
8月も前半が終わり、うっすらと夏休みの終わりが見えてきている。
ほとんど手つかずの宿題の存在感がぼちぼち増してきているのも事実。
歯を食いしばって誘いを断り家に帰る。
リビングで朝ごはんを食べる。
父親の弁当を詰めながら、母親が
「あんた、今日こそは宿題進めなさいよ」
淡々と、そして有無を言わせない凄みを持たせて言ってくる。
「・・・うん」
従順さに一抹の反抗心を覗かせた小学5年生特有の返事をする。
テレビではポンキッキーズが流れている。
ポンキッキーズが終わるまでは、なんとなくダラダラしてても母親も許してくれる感じがある。
父親が仕事に行き、ポンキッキーズも終わった。
小さなため息をついてソファから立ち上がって子ども部屋に移動する。
そのときリビングの電話が鳴る。
母親が出てしばらく話をして電話を切った。
「お母さんちょっと出かけることになったから。15時には戻るけど、お昼は作れないから自分でラーメンでも作って食べなさいよ。あとちゃんと宿題やっておきなさいね。」
そう言って出かけていってしまった。
「おりゃーーーーー!!!どんなもんじゃーーーい!!!」
謎の雄叫びをあげてリビングのソファにダイブ。
そのままテレビを見ながら10時まで爆睡する。
起きて、急に降って湧いた幸運を噛みしめる。
何してやろうかな?(宿題しろ)
朝誘ってくれた友人に電話しようと受話器を取ろうとすると、タイミングよく電話がなった。
電話に出ると母親だった。
「よし。家にはいるのね。ちゃんと宿題してるでしょうね?いい加減やらないと絶対終わらないんだから。分かった?」
「・・・今やってたから」
そう言って受話器を置く。
母親ってのはなんでこんな鋭いんだ。
そしてなんでこんな宿題に厳しいんだ。
学校関係者なのか?
ひとしきりぶーたれた後、ようやく諦めて子ども部屋に向かう。
ほぼ真っ白の宿題を広げてみる。
こんなもんやる気出るやつの気がしれないよ。
なんだってこんなことしなきゃいけないんだよ。
子どもは遊ぶのが仕事じゃないのか?
夏休みなんだから休ませてくれよ。
こちとら海行かなきゃいけないし、川行かなきゃいけないし、ゲームもしなきゃいけないし虫取りだってしないといけないんだ。
子どもは忙しいんだ。
宿題という制度への怒りがわいてくる。
それでもやらなきゃいけない。
やる気を出すために一旦台所へ行き、コップに氷を入れて麦茶を注ぐ。
キンキンの麦茶を持って机に戻る。
少し大人になったような気持ちで宿題に取りかる。
2、3ページもすると集中力はなくなる。
麦茶をおかわりするも、もう宿題を進める気力はない。
「ちょっと息抜きするかー」
誰に聞かせたいのか大声で独り言を言い、プレステの電源を入れる。
『モンスターファーム2』でせっせとガリの育成にいそしむ。
窓からの潮風と扇風機がぶつかるぬるい部屋でじんわりと汗をかきながら。
忘れ去られる宿題。
解けた氷で薄まる麦茶。
結露した水滴が机に広がり宿題を濡らしていく。
今週のお題「夏休みの宿題」
