連日の残業のダメージが体に残る。
不思議なもんで仕事が休みだとしっかり体は動かないんだな。
しかも外を見ると、金輪際、表には出ない決意固めるほどの悪天候。
よし。一生家にいよう。
持ち帰った仕事をカチカチ。
午後からは雨も上がり日が差してきた。
だが、体の疲れは深刻で何もする気力が生まれない。
ずっとゴロゴロしてた。
しかし、刻一刻と迫ってくる。
ライブハウスへと向かう時間が。
今日は知人に誘われてライブハウスにライブを見に行く。
著名なアーティストや自分の好きなバンドが出るわけではない。
県内で活躍する若手のアーティストのイベントらしい。
3週間ほど前に誘われ、特に予定もなかったので行く約束をしていた。
そして今日がその日ということだ。
行きたくない。
めちゃめちゃ行きたくない。
これは今日に限ったことではない僕の性分。
予定を立てたり、約束をすると、それが近づいてくるほど行きたくなくなる。
この日も完全に行きたくなかったが、しぶしぶ重い体を引きずりライブハウスの重たい扉を開けた。
まだ時間前、人もまばら。
僕よりだいぶ若い人が多い。
とりあえずワンドリンク制なのでチケット持ってカウンターへ。
元気はないがビールをもらう。
チケットと交換にビールをもらったところで、ライブハウスに来たという実感が湧いてきた。
こんなんだったな。
懐かしいな。
始まるまで友人と話しながらキョロキョロと見回す。
数年前に来た時とあまり変わっていないが、壁の至る所に
「マスクを外さないよう協力をお願いします」
「ライブ中大声を出さないようお願いします」
「お客様同士の間隔を空けてください」
という張り紙がされていた。
そして足元を見ると、『観覧位置』と書かれたシールが等間隔に貼られていた。
非日常を楽しむライブハウスにこのような張り紙をしなければいけないのはさぞ苦しい選択だったことだろう。
大規模な空気清浄機が設置されていたりと感染症と戦うライブハウスの苦悩が見て取れた。
思えばコロナが感染を拡大し始めたころ、最初にやり玉にあげあれたのがライブハウスだったことを思い出す。
あの危機的状況からこのように普通にお客さんを集めることが出来るようになったんだな。
このへんから僕の心に少し火が付いた。
せっかく来たんだから楽しんでやろう。
2杯目のビールを受け取ったのを合図に僕の気持ちは前を向いた。
いざライブスタート。
若いアーティストたちの個性あふれるステージが続く。
有名な人は一人もいない。知ってる曲もひとつもない。
それでも思っていた50倍は楽しかった。
体を貫通するほど響くバスの迫力。
足元から体を揺らすベース。
耳をこじ開ける高音のボーカル。
そのすべてを全身で感じる。聞いて楽しむのではなく全身で音を受け止める感覚というのはライブハウスでしか味わえない。
詳しいことは分からないが、今日出演したアーティストたちは完璧なプロの演奏に比べると拙い部分も多かったことだろう。
しかし、信念をもって音楽をやっているという気概を、
ぶちかましてやるという熱いパッションを感じた。
なぜだかは分からないが、明日から色んなことを頑張ろうという気持ちが湧きあがってきた。
勉強も、筋トレも、ファッションも、仕事も。
自分の生活すべてを目一杯やってやろうという気持ちが出てきた。
心にプロティンが注入されたといっていいだろう。
そしてステージのまばゆい光とスモークを見ているとなんともタバコが吸いたくなっていた。
昔はライブハウスの中に喫煙スペースがあり、始まるまで何十人もの人間が煙を吐いていた。今はその影もないが。
そんな思い出がフラッシュバックして僕にタバコを吸わそうとしてくる。
ライブハウスは非日常を楽しむ空間だ。
今日は非日常。
そう思い昨年末以来にタバコを買った。
ライブ終わりに外に出る。
少し肌寒い。
しかし体の芯にライブの熱がこもっている。
タバコに火をつけゆっくりと吸い込む。
GW初日の喧噪を感じる夜空に吐き出す。
ライブハウスでの音楽体験には酒とタバコがしっくりくる。こういったアナーキーなものも合わせて受け入れる心の寛容さこそが芸術を楽しむためには必要だ。
清濁併せ吞むってね。
自分の喫煙をここまできれいごと並べないと肯定できないなんて。
明日からまた禁煙のやり直しだな。
見たものから何を感じて何を得るのかはその人の心持ちひとつ。
僕はたまたま刺激を拾い上げることが出来た。
行ってよかったな。
行く前のグダグダが嘘のような晴れやかな気持ち。
そんな何もかもがちょうどいい夜だった。