地元の友人から久しぶりにLINEが届いた。
「元気か?こっちはここ何日か色んなことがあったぞ。たまには帰って来いよ。飲みながら話したいことがたくさんあるんだ。」
こんな内容だった。
彼とは親友だと思っているが、頻繁に連絡をとることはない。
それこそ数年に一度くらいだ。
地元に帰れば会うのだが、ここ数年は世の中の情勢を考えて家族以外とは会っていない。
そんな彼が連絡をくれるってことはよっぽど色んなことがあったんだろう。
おそらく、この知らせには黒い縁取りが付いている。
僕はあまり深くは聞かずに、最後は
「今年の夏は絶対帰るから。ゆっくり浜で焼酎でも飲もう。」
と返した。
そんなやり取りを終えて、職場を出る。
時刻は23時を回っていた。
大きな疲れは仕方ない、なんだかよく分からない充足感があったのが問題だ。
こんな時間まで働いてやってやったみたいな顔するな。
別に強制されて残ってたわけではない。
なんなら途中スシローに一回行くっていう意味不明な時間もあった・・・
馬刺しのやつ美味しかった。
それでも遅くまで仕事をしたことで脳内には、日大アメフト部の内田元監督の言葉がループしていた。
「やらなきゃ意味ないよ」
一時期話題になったこの言葉、悪質タックルの衝撃とその背景にある絶対的な上下関係も相まって、悪魔の言葉のように報道されていたことを思い出す。
学生スポーツの華々しい世界の裏にある、強烈な勝利至上主義を世に知らしめ、日本中を震撼させたこの言葉。
僕も学生時代とある競技に打ち込んでいたので、そういう話もよく聞いたし、他の大学に行った友人からも色々聞いていたので、このニュースへの関心は高かったことを覚えている。
この事件の被害者たちのことを思うと、軽々しく冗談でも人に言う言葉ではないのかもしれない。
でも僕はこの言葉自体は嫌いじゃないんだ。
誤解してほしくないのは、この言葉を含む、一連の悪質タックルの件は全くもって賛同できないし、スポーツにおいてあってはならないことだと感じている。
した方、された方、両方が被害者だと思っている。
内田元監督のしたことが、許されることではないのは十分すぎるほど分かってる。
このような指示をする監督が、今後のスポーツ界から出てこないことを切に願う。
それでもこの言葉単体だと、そんなに嫌いになれないんだ。
意味ないってのは色んなとらえ方が出来る。
それこそネガティブにもポジティブにも。
「やらなきゃ意味ないよ」
うん。
何度考えても、イマイチピントを合わせづらい言葉なのは確かなんだよな。
それでも今日の僕の残業中のマインドにはしっくり来る気もする。
僕は誰に強制されて残っているわけではないんだけどね。
きっと自分で自分に言い聞かせる言葉なんだと思う。
そんなこと考えてしまうくらい疲れてるんだな。
さぁ帰ろう。
車に乗り込む。
オーディオからは『人生一度』が流れてきた。
高校の頃によく聞いていたな。
友人から連絡が来た日に、その友人も大好きだったこの曲が流れてくるんだから、人生ってのは侮れないよね。
無性にタバコが吸いたくなった。
なんだろう。
仕事が長くなった日特有の疲労感に、エモーショナルな感情が合わさるとタバコが吸いたくなるのかな?
これまでの自分の思い出を辿ってみると、残業してる日の記憶は煙にまみれてた気もする。
ココアシガレットでもいいから吸いたいな。
ニコチンへの欲求は僕の感情によって左右されるんだね。
家に着いてシャワーを浴びる。
寝る準備をして布団に入ったのは0時を過ぎたころだ。
6時間後には明日が始まる。
それでも気持ちは負けてない。
こんな日にはあえて使おう。
やらなきゃ意味ないよ